Bright blue 1

 あぁ、いったい何だというのだ、この既視感は。
 ルアスは目眩にも似たものを覚えながら、目の前の男達を見上げた。
「この前はよくもやってくれたな、坊主」
「今日こそは覚悟するんだな」
 スキンヘッドと、髭面の屈強な男。いつだかに見た風体だ。ルアスは日用品の詰まった紙袋を、守るように抱き締めた。
 ――くれぐれも絡まれるなよ、と。出掛ける際に居候先の青年から念押しれた言葉を思い出す。手の離せない彼に代わり、市場に買い物に出てきてみればこの様だ。どうやら後を着けられていたようだ。イフェスのならず者共は執念深いらしい。帰り道、ちょうど人気の少なくなる貧民街に差し掛かって手を出してきたあたり、周到さを感じる。
「……おじさん達も随分しつこいね」
 さて、どうしたものか――冷や汗を書きながらも、ルアスは思案した。じりじりと詰まる距離に一歩後ずさる。しかし細い路地に追い込まれたため、ロクに逃げ場はない。魔法を使おうにもこの状況では分が悪い。以前は相手の気が自分に向いていなかったから上手くいったようなものだ。当然体力の面では敵うわけもない。助けを求める、という選択肢は一番最初に放棄した。周囲に人影はないし、そもそもイフェスの大半の人間は貧民街と関わりたがらない。期待するだけ無駄だ。駄目元で魔法を放って隙を作るしかない――そう腹を決めたときだった。
「いくら貧しいといっても他人を苦しめていい理由にらならないわよ、おじさま方」
 突如として割り込んできたのは、よく通る女性の声だった。
「なんだ、何モンだ!?」
 水を差された男達は声の主を探し辺りを見渡した。だが横は薄汚れた石壁に囲まれており、ルアスの背後は半分ほど崩れた家の瓦礫に塞がれている。そしてルアスの正面、つまり男達の後ろにもその姿は見あたらない。だとすると――。
「おい、上だ!」
 髭面の男が叫ぶ。もう片方が気付いて顔を上げた時には既に遅かった。
 その人物は路地を囲む建物の上から空中に身を踊らせ、地に落ちる勢いのままに髭面の男の顔面に蹴りを入れた。みし、肉と骨が軋む音が鈍く響き、男は昏倒した。彼女はルアスの目の前に降り立つと、素早く腰に差している細身の剣を抜き、その柄をもう一人の鳩尾に叩き込んだ。スキンヘッドの男は無抵抗のまま、悲鳴をあげる暇もなくその場に倒れ込む。
 瞬きをする程度の間に起きたことに頭が着いていかず、ルアスは呆気にとられて立ち尽くした。
「……えっと」
 とりあえずは、助けてくれたらしい女性に礼を言うべきかと口を開きかけると、彼女はおもむろにルアスの手を取った。
「何ボーッとしてるの。目を覚まさないうちに逃げるわよ」
「え?」
 戸惑っている間にも、女性はルアスの手を引き歩き出す。
「ほら、早く!」
「は、はいっ」
 有無を言わさぬ物言いに、ルアスは言われるがままにその場を後にした。

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