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日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 4

ゼキアは苛立っていた。そしてそれを隠そうともせず、大股で歩きながら時に小石を蹴飛ばし、その眉間には深い皺が刻まれていた。そんな彼の後ろを小走りで追いかけるルアスは、既に何度か口にした疑問を再び投げ掛けた。「ねぇ、ゼキア……まだ怒ってるの?」...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 3

「しっかし驚いた!お前魔法師だったんだな。さっさと追い払えば良かったのに」 今まで居た裏路地よりは人通りの多い場所に落ち着いたところで、ゼキアはそう切り出した。男に降り注いだ水のことである。魔法師、というのは魔法を使う者の総称だ。あの場に居...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 2

引きずられながら店の隙間をを通り抜けていけば、そこは人気のない裏路地だった。流石にまずい、と必死で抵抗したが悪あがきにもならず、非力な我が身を少年は悔やんでいた。「だから、お金も全然無いし、おじさん達が欲しいような物は持ってないってば!」 ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 1

エイリム王国は数々の戦争で周囲の国を合併し、繁栄した国だ。戦いは犠牲を生んだが、それ以上に大きな富をもたらした。小さかった国は膨れ上がり、栄華を極めた。三十年前の戦争を境に他国と平和協定を結び、今では国民は平和で豊かな生活を甘受している。 ...
日影の都 第一章 影に住むもの

prologue

暗い部屋だった。目を開いているか閉じているかさえ曖昧になるような、そんな深い暗闇。空気はじっとりと湿り気を帯びて黴臭く、重くその場に滞っていた。誰しもがその場に留まりたくないと感じるような、陰気な場所だった。 そんな部屋の中、古びた木椅子に...