itsuki

日影の都 第二章 Bright blue

Bright blue 5

少々、自分の方向感覚を過信していたかもしれない。月明かりを頼りに歩を進めながら、ルカは思った。「……完全に迷ったわね、これは」 昼間に市街地へ戻った時と比べて、優に二倍近い時間を歩き続けている。そんなことはない、と自分を誤魔化し続けていたが...
日影の都 第二章 Bright blue

Bright blue 4

徐々に日が傾き、石畳を赤く照らし始める頃。イフェスの市場はまだまだ賑やかだ。あちこちから聞こえる威勢の良い声。夕食の材料を買い求める女性。遊び足りないのか、帰りたくないと駄々をこねる子供たち。人々はやがて訪れる夜に怯えることなく、生活を営ん...
日影の都 第二章 Bright blue

Bright blue 3

「ようやく一区切りついたぜ。買い物大丈夫だったか……ってそちらさんは?」 余程根を詰めていたのだろうか、腕を伸ばし、間接を鳴らしながら現れたゼキアは、見慣れない人物がいることに気付くとルアスに問いかけた。対してルカは、何故か面喰らったかのよ...
日影の都 第二章 Bright blue

Bright blue 2

女性はルカと名乗った。腰ほどまである鮮やかな瑠璃色の髪をひとつに束ね、同じ色の瞳には凛とした輝きがあった。年頃の娘が好むような長いスカートではなく、ぴったりとした丈の短い上着にズボンという、動きやすさを重視した服に身を包んでいる。かといって...
日影の都 第二章 Bright blue

Bright blue 1

あぁ、いったい何だというのだ、この既視感は。 ルアスは目眩にも似たものを覚えながら、目の前の男達を見上げた。「この前はよくもやってくれたな、坊主」「今日こそは覚悟するんだな」 スキンヘッドと、髭面の屈強な男。いつだかに見た風体だ。ルアスは日...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 9

その後、ネルとルピ、そしてレオナを自宅まで送り届け、ようやく自分達が床に着いたのは空も白み始めた頃だった。毛布にくるまるのも億劫で、横になった途端に意識は遠退いた。疲労から深い眠りに落ち――目覚めたのが昼過ぎなのも、無理はない話である。「あ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 8

振り返ったゼキアの顔色が、変わった。なんとか息を整え体を起こそうとしているルアスと――その背後の何か。一瞬で変わったゼキアの緊張した面持ちに自身の背後を見ようとした瞬間、視界が闇に呑まれた。「危ねぇ!」 何がなんだかわからない内にルアスはゼ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 7

昼間に訪れた時のようにゆっくり辺りを見渡す暇もなく、ルアスは出せる限界の力で走った。自分から言い出したとはいえ、生み出した光を維持しながらの全力疾走はなかなか大変だった。息を切らし、何度も転びそうになりながらも、斜め前を行く青年に必死でつい...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 6

守りたいものが、あった。そのための力が欲しくて、必死でここまでやってきた――示された希望を信じて。しかし、それはやがて全てが後悔へと変わった。「なぜ……」 突きつけられた現実に、怒りと絶望が自分の中に渦巻くのを彼は感じた。  瞼を開けば見慣...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 5

「ふぅ……自分で言ったのはいいけど、途方もないなぁ」 持っていた荷物を一度床に下ろし、ため息をついた。今、ルアスは一人店内の荷物と格闘していた。途中までゼキアも居たのだが、彼が片付けようとすると余計に惨事になると気付いた時点で自分がやるから...