日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 6

「あ……」 さしものルアスも、何が起こったのか理解した。恐怖に喉が引き攣る。なぜ、“影”がここに。「下がってろ!」 疑問を口にするより先に、叫び声が響いた。ルアスの視界を煌々と燃える赤が覆う。言うまでもなく、ゼキアの炎だ。魔力によって産み出...
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 5

痩せ細って皺だらけの、けれど優しく暖かい手が頭を撫でた。「いいかい、坊や。よぉくお聞き」 酷くしわがれた声で、老婆は語りかける。古びた木椅子に腰掛ける彼女の傍らには、頼り無さげにランプの炎が揺れていた。ベッドでシーツに包まった自分の髪を梳き...
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 4

街の北門を抜けて更に北東、駆け足なら数刻程度の場所に、北の森はある。全力で街道を走り抜けたゼキア達は、程無く森の中へと足を踏み入れていた。追っている相手は既に先を行っている。森に入るまでに見付けられるのが最善だったが、どうやら相手は馬を使っ...
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 3

それからの帰り道、会話らしい会話は殆どしなかった。半歩後ろを付いて歩くルカはどこか上の空で、市場ではしゃいでいた時とは別人かと思うほどに静かだった。別段一緒に帰る必要は無いのだから、さっさと追い返してもよかったのかもしれない。しかし、ルカの...
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 2

久しぶりに訪れた市場は、予想通り多くの人で賑わっていた。記憶に有る限りこの場所が閑散としていたことなど一度もなく、恐らくイフェスで最も活気に満ちている場所ではないだろうか。「いやー、良い買い物したわね! 楽しかったぁ」「……そりゃ良かったな...
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる

ひそやかに揺れる 1

青空の澄み渡る、爽やかな朝だった。太陽の光は穏やかに降り注いでいたし、雲は緩やかに流れていた。頬を撫でる風も、涼やかで気持ちがいい。 ――そんな清々しい空気を吸い込んでは、重苦しい溜め息として吐き出す。果たしてそれを何度繰り返しただろうか。...