Eternal cage 第三章 水底に眠る

Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 8

水の音がした。せせらぎのような優しい流れとは違う、激しく暴れ狂う獣のような轟音。壁一枚を隔てただけの場所だというのに、ひどく遠くで起きたもののように聞こえた。 ――否、事実それは既に隔絶された空間での出来事だった。時の止まったこの聖堂こそが...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 7

「まずは昔話から始めましょうか」 ふわり、と優雅にドレスの裾を靡かせ、ノヴァは壇上の前の階段に腰掛けた。メネも同じ様に隣へ座る。しかし彼女はあまり喋る気は無いようで、どこか上の空だった。こういう事はもっぱらノヴァの仕事であるらしい。目線で促...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 6

ざり、と、何か異物を噛んだ感触がした。不快感を取り除こうと反射的に吐き捨てた唾は砂混じりで、舌の上が妙に塩辛い。身をよじると、あちこちが痺れたように痛んだ。小石か何かを下敷きにしたまま倒れていたようだ。その刺激で、ようやくユイスの意識は覚醒...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 5

身体が宙に浮かんでいるような、奇妙な感覚だった。立っていた筈の足場が突如として安定をなくし、急速に闇へと落下していく。しかし落ちた底に叩きつけられることはなく、見えない膜のようなものに受け止められ緩やかに着地する。乱された平衡感覚を取り戻そ...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 4

出立は翌朝となった。幸いにして天気も良く風も穏やかで、航海に支障は無さそうである。ユイス達が乗り込んだのは、地元の人々が漁に使う小ぶりな帆船だった。目的の遺跡は漁船が多く集まる場所からは外れてはいるが、イルベス沖からはそれほど遠くはないらし...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 3

人々の声と商品を運ぶ荷車の音、それを包むような潮騒。雑多なまでに賑やかなイルベスの町の中で、ただ一つ喧騒に溶け込まない白い建物。それが水の神殿だった。前に訪れた地の神殿とは対照的に、比較的歴史の浅い神殿である。その証拠を見せつけるかのように...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 2

人と物とでごった返す町の喧騒に混じって、甲高い海鳥の声が聞こえる。つられて空を見上げると、蒼穹を背景に白い影が視界を横切っていくところだった。その姿がどことなく満足気に見えるのは、港で魚のおこぼれを頂戴したからだろうか。 エル・メレク西方、...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 1

気が、急いていた。今日はやけに時の流れが遅く感じられる。早く仕事を終わらせて一人になりたい。そんな思いが如実に言動に現れ、この日のティムトは一挙一動が忙しなかった。ペンで綴る文字は乱れ、いつもは丁寧に整理されている書類も雑然としている。とは...