日影の都 第一章 影に住むもの

日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 9

その後、ネルとルピ、そしてレオナを自宅まで送り届け、ようやく自分達が床に着いたのは空も白み始めた頃だった。毛布にくるまるのも億劫で、横になった途端に意識は遠退いた。疲労から深い眠りに落ち――目覚めたのが昼過ぎなのも、無理はない話である。「あ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 8

振り返ったゼキアの顔色が、変わった。なんとか息を整え体を起こそうとしているルアスと――その背後の何か。一瞬で変わったゼキアの緊張した面持ちに自身の背後を見ようとした瞬間、視界が闇に呑まれた。「危ねぇ!」 何がなんだかわからない内にルアスはゼ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 7

昼間に訪れた時のようにゆっくり辺りを見渡す暇もなく、ルアスは出せる限界の力で走った。自分から言い出したとはいえ、生み出した光を維持しながらの全力疾走はなかなか大変だった。息を切らし、何度も転びそうになりながらも、斜め前を行く青年に必死でつい...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 6

守りたいものが、あった。そのための力が欲しくて、必死でここまでやってきた――示された希望を信じて。しかし、それはやがて全てが後悔へと変わった。「なぜ……」 突きつけられた現実に、怒りと絶望が自分の中に渦巻くのを彼は感じた。  瞼を開けば見慣...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 5

「ふぅ……自分で言ったのはいいけど、途方もないなぁ」 持っていた荷物を一度床に下ろし、ため息をついた。今、ルアスは一人店内の荷物と格闘していた。途中までゼキアも居たのだが、彼が片付けようとすると余計に惨事になると気付いた時点で自分がやるから...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 4

ゼキアは苛立っていた。そしてそれを隠そうともせず、大股で歩きながら時に小石を蹴飛ばし、その眉間には深い皺が刻まれていた。そんな彼の後ろを小走りで追いかけるルアスは、既に何度か口にした疑問を再び投げ掛けた。「ねぇ、ゼキア……まだ怒ってるの?」...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 3

「しっかし驚いた!お前魔法師だったんだな。さっさと追い払えば良かったのに」 今まで居た裏路地よりは人通りの多い場所に落ち着いたところで、ゼキアはそう切り出した。男に降り注いだ水のことである。魔法師、というのは魔法を使う者の総称だ。あの場に居...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 2

引きずられながら店の隙間をを通り抜けていけば、そこは人気のない裏路地だった。流石にまずい、と必死で抵抗したが悪あがきにもならず、非力な我が身を少年は悔やんでいた。「だから、お金も全然無いし、おじさん達が欲しいような物は持ってないってば!」 ...
日影の都 第一章 影に住むもの

影に住むもの 1

エイリム王国は数々の戦争で周囲の国を合併し、繁栄した国だ。戦いは犠牲を生んだが、それ以上に大きな富をもたらした。小さかった国は膨れ上がり、栄華を極めた。三十年前の戦争を境に他国と平和協定を結び、今では国民は平和で豊かな生活を甘受している。 ...
日影の都 第一章 影に住むもの

prologue

暗い部屋だった。目を開いているか閉じているかさえ曖昧になるような、そんな深い暗闇。空気はじっとりと湿り気を帯びて黴臭く、重くその場に滞っていた。誰しもがその場に留まりたくないと感じるような、陰気な場所だった。 そんな部屋の中、古びた木椅子に...