itsuki

Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 2

人と物とでごった返す町の喧騒に混じって、甲高い海鳥の声が聞こえる。つられて空を見上げると、蒼穹を背景に白い影が視界を横切っていくところだった。その姿がどことなく満足気に見えるのは、港で魚のおこぼれを頂戴したからだろうか。 エル・メレク西方、...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 1

気が、急いていた。今日はやけに時の流れが遅く感じられる。早く仕事を終わらせて一人になりたい。そんな思いが如実に言動に現れ、この日のティムトは一挙一動が忙しなかった。ペンで綴る文字は乱れ、いつもは丁寧に整理されている書類も雑然としている。とは...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 12

「……行っちゃった、みたいですね」 今し方までトレルが居た見つめながら、レイアはへなへなと地面に座り込んだ。気が抜けたのだろう。ユイスもまた、敵意から解放された安堵に息を吐いた。しかし、それと同時に胸の内に疑問が湧き起こる。なぜ、攻撃の手を...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 11

喉元にまとわり付く蔓は、呼吸を奪うことまではしなかった。音も立てずにゆっくりとユイスの薄い皮膚を這い回り、獲物が恐れをなすのを楽しんでいるかのようだ。それでいて決して力を緩めるようなことはせず、徐々にユイスの喉を締め上げる。少しずつ、少しず...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 10

「よーし、じゃあ行くぞー」 掛け声と共にイルファは舞い上がり、頭上へ両手を翳した。それを合図に、周りの空気が急速に熱を帯び始める。かと思えば見る見るうちにその手に赤い光が収束していき、やがて身体の大きさと同じ程の光の珠となった。「そーれっ!...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 9

空が、白み始めていた。黒く沈んでいた空がじわじわと紺へ色を変え、顔を出し始めた陽の光を受け夜の闇が消えていく。それでも朝と呼ぶにはまだ早いと思える時間に、ユイスは一人町の外を歩いていた。「なーなー、本当に行くのかー?」 否、正確には一人では...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 8

結局、その日の宿は神殿の一室を借り受けることとなった。申し出た際のレナードの渋い顔に少々苛立ちを覚えつつも、森での疲労もあって話もそこそこに二人はベッドへ潜り込む。柔らかに包み込む上掛けの感触は、張り詰めていた精神を少しずつ解きほぐしてくれ...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 7

フェルダの町へ帰還したのは、夕刻と呼ぶにはまだ少し明るいかと思われる時刻だった。仕事が一段落した住民達が、思い思いに寛ぎ始める頃である。緩やかな安息に満ちた町の中で、それとは正反対にユイス達の足取りは重かった。町と森との往復による疲労、そし...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 6

『……全く、早々に引き返せばよいものを』 大地が、唸る。そんな錯覚を覚えるような低い声だった。唐突に響いたそれは発せられた方向もあやふやで、妙にくぐもっている。それでいて畏敬の念を抱かずにはいられないような、強烈な存在感があった。 ――同じ...
Eternal cage 第二章 歪み、映すもの

歪み、映すもの 5

「特別、出入りは禁じられてはいません。そんなものがなくても町の人間は森を荒らすような真似はしませんから。管理のために神殿の者が時々立ち入るくらいですね」 豊かな土地は、森に御座す精霊の加護あってのもの。町の住人達にはその概念が骨の髄まで根付...