Eternal cage 第六章 決別

Eternal cage 第六章 決別

Epilogue

窓から差し込み、手元を照らす日差しは穏やかだった。柔らかな午後の光で指先を温めながら、ユイスはペンを滑らせる。一枚、また一枚と重ね続けた書類は、既に古代語の辞書を三冊重ねたほどの高さに達していた。しかし残念なことに、机の反対側には未処理のも...
Eternal cage 第六章 決別

決別 8

そう言いながら、ノヴァは頭上に目をやった。優美な天井画、細やかな装飾の硝子窓。それらは息をつくほど美しかったが、彼女達にはなんの慰めにもならなかっただろう。人の痕跡がないはずである。幽閉、という言葉からして、この場所を訪なう者がほぼ皆無だっ...
Eternal cage 第六章 決別

決別 7

深い青の中を落ちていく。静かに水を温める陽光に、遠くの魚たちの鱗がきらめいていた。揺蕩う透明な海月、千切れて彷徨う海草、不意に舞い上がる海底の砂。夥しい命を育む場所というのは、ただそこにあるだけで神秘的だった。こんな光景を悠々と眺めたことが...
Eternal cage 第六章 決別

決別 6

ほどなくして、頭を揺さぶられるような轟音が辺りに響き渡った。大地が震え、吹きすさぶ爆風で遺跡の一部が崩れ瓦礫が飛ぶ。身構えていてもかなりの衝撃だった。身体が痺れるような感覚がようやく治まると、ユイス達は隠れていた壁から外側を覗き見た。つい先...
Eternal cage 第六章 決別

決別 5

以前の旅路がだいぶ大回りだったことを考慮しても、今回の遺跡への道行は早いものだった。効率だけを重視して神殿にも立ち寄らず、以前は控えていたが多少権力を振りかざすような真似をすれば、目的に数日で辿り着いてしまった。こうなると、紗に隔てられたよ...
Eternal cage 第六章 決別

決別 4

漆黒だと確信していた空の際から、少しずつ白い輝きが溢れ出していた。明かりを落とした室内もその影響を受け、窓から注ぐ冴え冴えとした光で満たされていく。その様子を窓際から眺めていたユイスは、そろそろ頃合いかと大きく伸びをした。準備ははティムトと...
Eternal cage 第六章 決別

決別 3

ティムトを追う形でユイスがやってきたのは、回廊に面した中庭だった。そういえば外の空気を吸うこと自体久しぶりだ。幾日ぶりかに見た空は穏やかに晴れ渡っていた。敷き詰められた芝生の青さは光を受けて鮮やかに輝き、中央に据えられた噴水では金色の飛沫が...
Eternal cage 第六章 決別

決別 2

ユイスが帰還してさほど間を置かず、王はクロック症候群の収束を民に宣言した。唐突な知らせに誰もが半信半疑な様子であったが、個人差はあれど王都にいる患者も回復の兆しを見せている。彼らが心からの安堵を得る日は遠くないだろう。時代の時柱の問題を除け...
Eternal cage 第六章 決別

決別 1

クロック症候群は収束する。ノヴァの言葉が真実であることは、ユイス自身が身をもって知ることとなった。最初に変化があったのは遺跡を離れてほどなくのことである。全身に強い倦怠感が現れた。それだけならただの疲労なのだが、次第に手足の違和感が増し始め...