日影の都 第五章 光と影と

日影の都 第五章 光と影と

光と影と 12

「――なんだか、お客さんが増えたようだね」 高見の見物、というように沈黙を保っていたシェイドが、おもむろに口を開いた。味方の参戦に弛んでいた空気が一気に緊張を取り戻す。口元を三日月型に歪め、彼は余裕ぶった態度を崩さない。この程度の援軍、物の...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 11

街は、酷い有り様だった。人々は混乱し、叫び、あてもなく逃げ惑う。光の下に溢れ出した“影”達は狩るというより弄ぶかのようにそれを追い立て駆け回っていた。家屋に立てこもって身を守ろうとしても、漆黒の獣は臭いを嗅ぎつけ窓や扉に身体をぶつけ破ってし...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 10

眩しい。隠し通路から抜け出して真っ先に思ったのは、そんな事だった。すっかり暗闇に適応していた瞳に、日の光が痛いほどの刺激となって突き刺さる。何度か目をしばたかせて明るさに慣れてくると、最初に感じたほど陽光は強くなかった。うっすらと朝靄に透け...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 9

深い闇に潜った先でゼキア達を待ち受けていたのは、目を覆いたくなるような光景だった。 古く、今にも崩れそうな階段を下りきると、上の階とよく似た通路が更に続いていた。規則的に並んだ牢と、冷たく湿った石の壁。格子の向こうには、やはり捕らわれの身と...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 8

少女の手のひらで、小さな炎が躍る。くるくると渦を巻きながら火の粉を散らし、それは童話に登場する妖精のような舞を披露した。 かと思うと次の瞬間には炎は弾けて灰となり、そこから緑の芽が生まれる。瑞々しい新芽は見る見るうちに背を伸ばし、白い花弁を...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 7

結果として、ゼキア達はどうにか目的地に辿り着くことが出来た。何度か同じ道を往復することになったり、全く違う出口に行き着いたりもしたが、ルカの勘もそう悪くはなかったと思える程度には許容範囲内である。ただ、いたずらに時間を浪費してしまったことは...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 6

見慣れた貧民街の路地を通り過ぎ、市街地から市場、そして街の大通りを全力で走る。お守りに込められていた魔力は、時間が経つほどに少しずつ薄くなっていた。大体の方角は把握していたものの、このままでは見つけにくくなる一方である。急がなければいけない...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 5

家に戻るなりゼキアはどっかりと椅子に腰を下ろし、深々と息を吐いた。酷く重たく感じる頭を支えるように、俯き目元を片手で覆う。ここ数日は、絶えることなく頭痛に苛まれていた。疲労と寝不足に身体が悲鳴を上げている自覚はある。しかし、大人しく休んでい...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 4

闇の淵から意識が浮き上がった時、ルカは見知らぬ場所にいた。瞼を持ち上げた瞬間目に飛び込んできたのは、灰色の天井と煤けた小さなシャンデリア。自分の部屋でないことだけは確実であった。 両腕を動かしてみる。足も、特に異常は無いようだ。それを確認す...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 3

学院の敷地に足を踏み入れるのは、呆気ないほど簡単だった。まずは門前の警備に声を掛け、学生に知り合いがいるので面会に来た、と言う。先程のゼキアの件もあってか初めこそ疑わしげな視線を向けられたが、金細工の小さなブローチを握らせるとあっさりと引き...