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Eternal cage 第一章 小さな炎

小さな炎 5

翌日。ユイエステルはジーラスとフェルレイアを伴い、とある場所を訪れていた。装飾を一切排除した白い天井。鏡のように磨かれた曇りひとつ無い床。まるで外界から隔絶されたように、物音ひとつしない。ただユイエステル達の靴音だけが、やけに高く響いていた...
Eternal cage 第一章 小さな炎

小さな炎 4

淡い光が、眼球を刺激する。目覚めを自覚した瞬間、ユイエステルは慌てて飛び起きた。「ここは……」 その動きに合わせて軋むベッドの音と、糊の効いた真新しいシーツの感触。辺りを見渡すと、質素な、そして必要最低限の物品が置かれているのが目に入った。...
Eternal cage 第一章 小さな炎

小さな炎 3

瞼を開いた瞬間、ユイエステルは困惑した。目を覚ました場所が、あまりにも想像と違っていたからだ。 屋内なのは、解った。己の身体か横たわる床には赤地に金の刺繍がされた絨毯、部屋に置かれた華やかな装飾の調度品。そこそこ身分のある貴族の屋敷、といっ...
Eternal cage 第一章 小さな炎

小さな炎 2

目的地であるルーナの街は、王都から馬車を乗り継いで約二日ほどの所にある。幸いにして天候もよく、途中で足止めを喰らうこともせずに済みそうだった。これならば当初の予定通りに着けるだろうと、ユイエステルは安堵の息をつく。窮屈な乗り合い馬車から眺め...
Eternal cage 第一章 小さな炎

小さな炎 1

厳かな空気の漂う空間に、二人の男がいた。いや、一人は少年と言うべきだろうか。段上の玉座に向かって膝を折り、深々と頭を下げていた。果たして、彼がそうしてどれほど経っただろうか。少年は決して体勢を崩さなかった。肩口で揃えられた黒髪が、僅かに揺れ...
Eternal cage 第一章 小さな炎

Prologue

何かが壊れる音を、確かに聞いた。聴覚ではなく、身体の奥深く、自身ですら触れることのできない不可視の繋がりがそれを捉えていた。何かが起ころうとしている。いや。もう起きてしまったのかもしれない。微かな胸騒ぎを抑えながら扉を開き、歩を速める。果た...
日影の都 番外編

雪解けに微睡む

温暖なエイリム王国には珍しく、その日は雪が積もっていた。冬とはいえ、王城の中庭は常に手入れされていて美しい。瑞々しい緑を湛えた低木が囲む、赤銅色の煉瓦道。丁寧に刈られた柔らかな芝生。寒さの中でも控えめに色づく、小さな花々。しかしそれらも、今...
日影の都 Epilogue

Epilogue 2

「ルアスと一緒にいるのを見つけたんだけど、なんとなく声掛けづらい雰囲気だったから」 こんな所で何をしているんだ、という疑問に、ルカはそう答えた。機を窺っているうちにゼキアがその場を離れて、姿を見せたのだという。 店までの帰り道、ルカは当然の...
日影の都 Epilogue

Epilogue 1

エイリム国王レミアス崩御の知らせは直ちに国中に通達され、国民達は七日間の喪に服すこととなった。祝い事を禁じ、常時において慎まやかに過ごすよう命が下り、民は偉大な王の“不幸な事故”による急死を悼んだ。加えてイフェスでは、先日の“一部の貴族によ...
日影の都 第五章 光と影と

光と影と 12

「――なんだか、お客さんが増えたようだね」 高見の見物、というように沈黙を保っていたシェイドが、おもむろに口を開いた。味方の参戦に弛んでいた空気が一気に緊張を取り戻す。口元を三日月型に歪め、彼は余裕ぶった態度を崩さない。この程度の援軍、物の...