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日影の都 第五章 光と影と

光と影と 1

今日も、エイリムの王城は煌びやかで美しかった。壁には一分の隙もないほど完璧な彫刻と絵画、頭上には金と硝子で彩られた装飾照明。城の中は、どこへ行っても贅の限りを尽くした仕様で人の目を楽しませる。だがとっくの昔にそれらを見慣れてしまった自分にと...
日影の都 第四章 Scar

Scar 10

今でも、あの時の光景は眼裏に焼き付いたまま離れない。ことあるごとに記憶は鮮明に蘇り、きっとこれから先も消え去ることはない。あれほどに誰かを呪い、己の無力を嘆いた日が他にあっただろうか。 後々、風の噂でオルゼスが騎士団長に就任したと聞いた。前...
日影の都 第四章 Scar

Scar 9

緩やかに、意識が浮上する。水底から徐々に明るい水面へ向かうように少しずつ自我を取り戻し、ゼキアはのろのろと瞼を持ち上げた。 暗い。外はもう日が落ちたのだろうか。天幕には僅かな隙間があったが光が差し込むことはなく、頼りないランプの光だけが辺り...
日影の都 第四章 Scar

Scar 8

「奴らに火をかける」 オルゼスが口にした予想は正しく、ゼキア達を前にして開口一番に騎士団長――ファビアンは、“影”の群れに攻め込むことを告げた。「それ自体が攻撃でもあるが、燃えて辺りが明るくなれば“影”共の動きも鈍って叩きやすかろう。なかな...
日影の都 第四章 Scar

Scar 7

数日後。マーシェル騎士団は国境付近の平野に駐屯地を構えていた。ゼキアの故郷であるデルカ村に程近い場所である。今回の任務の内容は、この近辺に発生する“影”の討伐だった。元より夜になればどこにでも現れる厄介者であるが、どうもその量が尋常では無い...
日影の都 第四章 Scar

Scar 6

それから、暫しの時が過ぎた。てっきり冗談だろうと思っていたオルゼスの言葉だったが、驚くことに彼は本当に再びデルカ村を訪れたのである。件の出来事から数ヶ月経った頃だろうか。馬鹿のように丁寧な態度で、オルゼスはゼキアの両親に頭を下げた。なんでも...
日影の都 第四章 Scar

Scar 5

その日のデルカ村は、どこか張り詰めた空気に包まれていた。エイリム王国で最も国境に近いこの村は、小さく貧しいが活気に溢れる場所だ。戦争の爪痕を深く残しながらも、その逆境ゆえに人々が力強さを増した村である。家畜を飼い、作物を育て、皆が助け合って...
日影の都 第四章 Scar

Scar 4

考えてみれば、あの時も様子がおかしかったのだ。思い返すのは、初めてゼキアとルアスに出会った日の夜である。もう少しというところで隠し通路にいるのをオルゼスに見つかり、小言を言われながら私室に戻った後のことだ。「――ルカ様、それは?」 一通りそ...
日影の都 第四章 Scar

Scar 3

「うーん、二人とも大丈夫かな」 市街地を当て所なく歩きながら、ルアスはぼんやりと呟いた。今ルアスが居るのは、家とは全く別方向にある大通りだった。人も多くて賑やかな、普段立ち寄ることはあまり無い場所だ。本来の目的であった届け物はとうに終えてい...
日影の都 第四章 Scar

Scar 2

「ねぇねぇ、何か手伝おうか?」 当然のように台所まで付いてきたかと思えば、そんな申し出を受けた。妙に目が輝いて見えるのはなぜだろうか。「いらねぇよ。向こうでおとなしくしてろ」「一人で待ってても退屈だもの。ね、何作るの?」 素っ気なくあしらお...