itsuki

Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 6

自身が異端の存在であるという自覚が芽生えたのは、いつのことだっただろうか。気付いた時には既に周囲から崇められ、或いは気味悪がられ、一人で違う世界に取り残されていた。きっと明確な転換点があったわけではないのだと思う。ただ、最初のきっかけだけは...
Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 5

物音がする、と気付いて意識を向けた先には、白い壁と木の扉があった。身体を覆っていたシーツを引き剥がし、辺りを見回す。さほど広くもない、質素な備品が最低限に設置された宿の部屋。窓の外はすっかり暗くなっていたが、日付はまだ変わっていないだろう。...
Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 4

瞼を開くと、目に飛び込んできたのは見慣れぬ部屋の景色だった。身体を休めようと横になった素朴な宿ではなく、華やかな調度品と不思議と昼の明るさを保った部屋。更におかしなことに、なぜかユイスは床に転がっていた。確かにベッドに潜り込んだ記憶があるの...
Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 3

「……殿下! ユイエステル殿下!」 荒々しく名を呼ばれたことで、ユイスは我に返った。カタン、と手元で小さく音が鳴る。取り落としたペンは机の上で跳ね返り、あらぬ方向へと転がっていった。インクはすっかり乾ききっていたようで、幾重にも重なった書類...
Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 2

「イルファ、そうなの?」「んー、何がだー?」 当事者が陣取っている頭上に手を伸ばし、レイアが尋ねる。しかしイルファは生返事を返すばかりだった。話を聞いていないのか、それとも自覚がないのか。その両方、という線が一番濃厚である。様子を見ていたレ...
Eternal cage 第五章 犠牲

犠牲 1

濃密な緑の木々を背景に、鮮やかな青い髪がふわりと揺れる。本来なら己の領域ではない場所に現れた水の眷属の姿は、どこか場にそぐわないような違和感と、確かな味方が身近にいるという安堵をユイス達にもたらした。「さて、話の続きをしなきゃなの」 驚きの...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 8

「流石に察しがいい。そう、エルドはヘレス王家の子孫だよ。その血筋を遡って私が出てきたというわけだ。はっきりと自我を持つのには時間がかかったが、ね。エルドはエルドで別にいるよ。ただ、症状が進行すれば消えてしまうかもしれないけどね」「そんなこと...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 7

神殿の門前から見上げた、山の木々を追い越し天へ伸びる塔。ここでは、それが風の王を祭る聖殿の役割を担っているらしい。ヴァルトが残した言葉に誘われるまま、ユイス達は塔へ向かって歩を進めた。案内役であった少年はいなくなってしまったが、迷うこともな...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 6

言いかけて、ユイスははたと口を噤んだ。エルドの様子がおかしい。新緑の瞳は突然枯れてしまったかのように色褪せ、焦点の合わない虚ろな視線が宙をさまよう。どうした、と声を掛けようとした瞬間、その身体から力が抜け落ちた。意識を失ったように見えたエル...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 5

山肌を切り崩して無理矢理平らにしたような場所に、風の神殿はひっそりと佇んでいた。他の神殿と同じように建物は白で統一され、門前にはそこで祀る精霊の像が置かれている。異なっているのは、敷地全体を囲む防壁が無いことだ。この険しい山道自体が自然の要...