日影の都 第四章 Scar Scar 1 店、とは言うものの、『ライトランプ』の日常は商売をしているとは言い難いものだった。 まず、客が来ない。時折近隣の住人が顔を出すものの、大抵は冷やかしか雑談をしに来るだけ。何か買っていくとしても、物々交換や値切られて負けてやることも多かった。... 2020.09.10 日影の都 第四章 Scar
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 6 「あ……」 さしものルアスも、何が起こったのか理解した。恐怖に喉が引き攣る。なぜ、“影”がここに。「下がってろ!」 疑問を口にするより先に、叫び声が響いた。ルアスの視界を煌々と燃える赤が覆う。言うまでもなく、ゼキアの炎だ。魔力によって産み出... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 5 痩せ細って皺だらけの、けれど優しく暖かい手が頭を撫でた。「いいかい、坊や。よぉくお聞き」 酷くしわがれた声で、老婆は語りかける。古びた木椅子に腰掛ける彼女の傍らには、頼り無さげにランプの炎が揺れていた。ベッドでシーツに包まった自分の髪を梳き... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 4 街の北門を抜けて更に北東、駆け足なら数刻程度の場所に、北の森はある。全力で街道を走り抜けたゼキア達は、程無く森の中へと足を踏み入れていた。追っている相手は既に先を行っている。森に入るまでに見付けられるのが最善だったが、どうやら相手は馬を使っ... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 3 それからの帰り道、会話らしい会話は殆どしなかった。半歩後ろを付いて歩くルカはどこか上の空で、市場ではしゃいでいた時とは別人かと思うほどに静かだった。別段一緒に帰る必要は無いのだから、さっさと追い返してもよかったのかもしれない。しかし、ルカの... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 2 久しぶりに訪れた市場は、予想通り多くの人で賑わっていた。記憶に有る限りこの場所が閑散としていたことなど一度もなく、恐らくイフェスで最も活気に満ちている場所ではないだろうか。「いやー、良い買い物したわね! 楽しかったぁ」「……そりゃ良かったな... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第三章 ひそやかに揺れる ひそやかに揺れる 1 青空の澄み渡る、爽やかな朝だった。太陽の光は穏やかに降り注いでいたし、雲は緩やかに流れていた。頬を撫でる風も、涼やかで気持ちがいい。 ――そんな清々しい空気を吸い込んでは、重苦しい溜め息として吐き出す。果たしてそれを何度繰り返しただろうか。... 2020.09.10 日影の都 第三章 ひそやかに揺れる
日影の都 第二章 Bright blue Bright blue 8 風が緩やかに梢を揺らす中、ルカは帰路を急いでいた。歩きやすく整えられた道を外れ、木々の間を縫うようにして歩く。またもや迷った、というわけではなく、これが正しい道なのである。慣れた様子で辿り着いた先には、巨大な白磁の壁があった。重々しく聳える... 2020.09.10 日影の都 第二章 Bright blue
日影の都 第二章 Bright blue Bright blue 7 日が沈むのは、人々を心地よい眠りに導くためだという。けれど、そんなものは嘘だ、とゼキアは思った。 少なくともこの貧民街においてはそうだ。闇夜は、“影”たちの味方である。彼らの姿を隠し、獲物となる者の視界を奪う。そうして人が狩られていく様を、... 2020.09.09 日影の都 第二章 Bright blue
日影の都 第二章 Bright blue Bright blue 6 じりじりと、まるで臓腑が蝋燭で炙られているようだった。熱を孕んだ不快感と言い様のない不安感に襲われ、ルアスは目を覚ました。「目、覚めたか」 いったいこれは何なのかと、そう思考を始める暇もなく声をかけられる。重い身体を引き摺るように起こすと、... 2020.09.09 日影の都 第二章 Bright blue