itsuki

Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 4

話に違わず、風の神殿への道程は険しいものだった。鬱蒼と頭上を覆う木々のお陰で薄暗く、湿り気の多い土は足が沈んで余計に体力を消耗する。道幅も狭く、太い木の根と苔むした岩があちこちにのさばっていた。階段と呼ぶにも躊躇うような、辛うじて人の手が入...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 3

「俺、昔ルーナに住んでたんだ」 エルドと名乗った少年は、ユイス達と同じテーブルで麦粥を頬張りながら語り始めた。未だ湯気の立つそれはやはりかなり熱かったららしく、エルドは随分苦労した様子で嚥下する。「もう何年も前だけど。たまたまイルファを見つ...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 2

丸一日を休養に費やし、レイアの怒りもどうにか治まったところで、ユイス達はイルベスの町を後にした。出立の時にレニィの姿を探してみたが、結局あれ以来顔を見せることはなかった。元々『見張り』として同行していたらしいので、彼女達の領域を去るなら顔を...
Eternal cage 第四章 人と精霊

人と精霊 1

身じろぎした時の、身体が引き攣るような感覚で目が覚めた。肌に柔らかな感触が触れる。清潔なリネンと暖かな空気が、疲弊したユイスを優しく包んでいた。引きずるように半身を起こしベッドに腰掛ける。部屋の内装と窓から見える景色からして、どうやら水の神...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 8

水の音がした。せせらぎのような優しい流れとは違う、激しく暴れ狂う獣のような轟音。壁一枚を隔てただけの場所だというのに、ひどく遠くで起きたもののように聞こえた。 ――否、事実それは既に隔絶された空間での出来事だった。時の止まったこの聖堂こそが...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 7

「まずは昔話から始めましょうか」 ふわり、と優雅にドレスの裾を靡かせ、ノヴァは壇上の前の階段に腰掛けた。メネも同じ様に隣へ座る。しかし彼女はあまり喋る気は無いようで、どこか上の空だった。こういう事はもっぱらノヴァの仕事であるらしい。目線で促...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 6

ざり、と、何か異物を噛んだ感触がした。不快感を取り除こうと反射的に吐き捨てた唾は砂混じりで、舌の上が妙に塩辛い。身をよじると、あちこちが痺れたように痛んだ。小石か何かを下敷きにしたまま倒れていたようだ。その刺激で、ようやくユイスの意識は覚醒...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 5

身体が宙に浮かんでいるような、奇妙な感覚だった。立っていた筈の足場が突如として安定をなくし、急速に闇へと落下していく。しかし落ちた底に叩きつけられることはなく、見えない膜のようなものに受け止められ緩やかに着地する。乱された平衡感覚を取り戻そ...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 4

出立は翌朝となった。幸いにして天気も良く風も穏やかで、航海に支障は無さそうである。ユイス達が乗り込んだのは、地元の人々が漁に使う小ぶりな帆船だった。目的の遺跡は漁船が多く集まる場所からは外れてはいるが、イルベス沖からはそれほど遠くはないらし...
Eternal cage 第三章 水底に眠る

水底に眠る 3

人々の声と商品を運ぶ荷車の音、それを包むような潮騒。雑多なまでに賑やかなイルベスの町の中で、ただ一つ喧騒に溶け込まない白い建物。それが水の神殿だった。前に訪れた地の神殿とは対照的に、比較的歴史の浅い神殿である。その証拠を見せつけるかのように...